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在ムンバイ日本国総領事館でイランビザ取得のためのレターをいただこうと日射病予防のために水をがぶがぶ飲みながら高級住宅街を歩いていたら、日章旗は掲げられていないが日本語で「日本国総領事館」と書いてある看板があったのでよしここが在ムンバイ日本国総領事館だろう、しかし門が閉まっているな、と思いつつ腹痛に襲われる。
門の専門家である門番に門が閉まっている理由について尋ねるとなるほど今日は土曜日らしい。そしてムンバイからドバイを経由してテヘランへ向かう私の快適な空の旅が予定されている明日は日曜日らしい。今年で26歳になる私は、自分が土曜日や日曜日とはどういう日なのかわかっているけれども今日が何曜日なのかは門番に教えてもらうまでわからない程度には幼い、ということを思い知り、加えて件の腹痛もおさまらず、地面にうずくまり打ちひしがれていた。すると何も言わずに私を抱きしめトイレの場所を指差す門番。イケメンであった。
念のため、というより、一縷の望みを胸に抱いてイスラミックリパブリックオブイラン領事館へ向かうも今度は国旗こそ掲げられているもののやはり門は閉まっている。いてもたってもいられなくなりダッシュで電車に乗ってチャーチゲート駅で下車。なお電車の扉は開きっぱなしでいつでもどこでも降りられるシステムになっているが走行中にホームに飛び降りると慣性の法則で派手に転びそうになるので注意。まあ今日が何曜日なのかもわからない人間に注意などされたくはないだろうが……
こちらはなんとか開いていたエミレーツ航空のオフィスに汚らしい格好で駆け込み、もしかするとこんなことになるのではないかという不安はビーチでピナコラーダを飲んだり波と戯れていたりしていたときも常に胸中にあったがその不安が見事的中してビザが取れなかったのでフライトを変更して欲しいと申し出、なんとかプラス2000円で火曜日の同じ時間に私の席は移動した。その日までにビザが取得できる保障もあいかわらず無いわけだが、月曜日も火曜日も少なくとも門くらいは開いているだろう。そしてもしそれでも駄目だったらイスタンブールへ飛ぼう、そう、ビザの必要のない国へ……と決めましたお母さん。定期的にメールを送るという約束を破ってすみませんでした。
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以上のような顛末で、インドで一番ホテル代が高い街、ムンバイで退屈な日々を過ごす羽目になった私は、井筒俊彦訳の『コーラン』をひたすら読んだりしながら時間をつぶし、それに飽きると「地球の歩き方」をめくってホテル近所にあるドービー・ガートという屋外洗濯場がなかなかの壮観らしいと知り、近所だから手ぶらで行ってもまさか迷いやしないだろうとフロントにキーを預けて外出、ところが目的のドービー・ガートはそれほど見るべきポイントもなく数枚写真をとって終了、まだホテルの夕食が用意されるまで時間が余りまくっていたのでテキトウに横道にそれたりしていると、ビザをゲットして余裕も出たところでインド最後の夜にちょっと冷やかしに行こうと思っていた売春街に知らぬうちに迷い込み、一回200円だけどどうかな?と異常な金額で私とのコミュニケーションを打診してきたインド人女性を無視しつつ更に奥に進むもあっけなく「例の目つき」をした女性がいるエリアは終了、そして私は迷子となったのであった。もはやこれは日課である。
例の目つき、とは「ああこの女性は男性である私からお金を奪おうとしているな」ということが目があった瞬間にわかる目つきのことで、それは新宿の路上でも池袋の路上でも上野の路上でも、なんなら那覇の路上でも富山の路上でもバンコクの路上でも見つけることができる普遍的な目つきであり、案の定ムンバイの路上でもそれは寸分たがわず同じであった。同じように路上にたむろし、同じように積極的にこちらと目をあわそうとし、同じように私からお金を奪おうとするインド人女性として物乞いの方々が存在するが、それとは違う。
道に迷った。という問題はまったく解決していないけれどどうせ時間はありあまっているのだし小腹も空いたし、と近くのレストランに入り、具が卵だけのシンプルなチャーハンとミネラルウォーターと食後のコーヒーを腹にほうり込みながらそんなことをつらつらと考え、店内から見える建設途中の高層ビルを目印にホテルに帰ることができそうだなとぼんやりと思いつき、帰りにATMに寄らないと、と腹巻の中のクレジットカードをそっと確認した。
写真はドービー・ガート。21世紀にもなって手洗いで洗濯をしている、という事実が観光客のツボをついている模様。
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